2007年03月05日

シーサー修行の日々④

陶芸に魅力を感じなくなってしまった。
そんな時、目を付けたのが漆喰と言う素材だった。
漆喰とは、わらと石灰で出来ていて、赤瓦の屋根の補強に使われる素材であるが、沖縄では瓦職人達が、余った漆喰と瓦を使って、魔よけの為に、そして自分の作った家という証しを残す為に作り始めた物がシーサーの始まり

だから、もともとシーサーとは漆喰で作られていて、形も自由な物だ。元々架空の動物だし、どんな形でもいいし、それがシーサーの魅力でもあると思う。
 
今は、陶器で作った、決まり切った顔のシーサーを、伝統的なシーサーと一般に言っているが、それはおかしいのでは。 
シーサーの原点は漆喰のはずなんだから。
 
また、漆喰はものすごく質感がいい。何とも言えずに柔らかく味があって、自然乾燥してパステル絵の具で色を付けるから、色も形も自分の思うまま、割れる心配などせず、自由に作れる。どんな色に仕上がるという心配もいらず、自由な色で思いのまま塗る事が出来る。
 
それに私の好きな作家さんは気が付くとみんな漆喰でシーサーを作っている人達ばかりだった。
特に一番好きな作家さんのシーサーを見る度に、漆喰で作りたいなぁと言う気持ちは日増しに強くなって行った。
 
そんな気持ちで陶芸のシーサーを作っていても、当然熱は入らず、ただでさえ不器用な私がうわついた気持ちでいたら、その仕事のひどさは目に余る物があったと思う。
漆喰をやってみたい、でもまだ9ヶ月しか陶芸の修行をしていない。ここで陶芸を辞めてしまうにはあまりにも決断が早すぎないか・・まだ陶芸の事も全然分かっていないのに・・
  
と悩む日々が続いたが、ひとまず、趣味で漆喰シーサーを作ってみようと思い、漆喰や瓦の製造元を調べて、動き出して、あちこち電話して、安い漆喰の製造元を突き止めたその次の日、遅刻をして先生を怒らせてしまい、「やる気もないみたいだし、いつまでたっても定番のシーサーは作れないし、どうするか、これからも続けるか」と言われたので、「今日で辞めます」と言って私の退職は突然決まった。
 
この工房を辞める事になった物の、私はこの工房の人達には本当にかわいがってもらったと思う。
工房には17人働いていて、そのうち沖縄出身が半分、内地出身が半分、男性も女性も半分と言った感じで、年齢は私が調度真ん中ぐらいだった。
 
この工房の人達は、特に内地(本土の事)から来ている人は、6万円スタートと言う少ない給料で一人で生活していかないといけない為か、とにかくみんな気の強い人達が揃っていた。
 
普通、どこの職場でも気の強い人もいればそうでない人もいるのだと思うが、この工房の人達に関しては、みんな職人気質で、自分の作品にプライドを持っていて、それぞれ自分の世界を作り出していた。
 
だから、作品の事から、掃除の仕方、シーサー教室の講師の仕方、とにかく色々な事で何をしても不器用だ、大雑把だと言われ、毎日叱られていたが、それでもみんな、決して私の事を見捨てたり、馬鹿にしたり、陰口をたたいたり、、そういう陰湿な事は一切しないで正面から私と向き合ってくれて、何とか私を一人前のシーサー職人にしようとあれこれ助言してくれたりした。
 
残業中にはビールやおつまみを買って来てくれて、残業をしながらいつの間にか宴会になったり、仕事をいう枠を超えて、すごくかわいがってもらえた。
 
女の先輩には普段、怒られてばかりいたが、家に遊びに行ってご飯を食べさせてもらったり、男の先輩とは残業中にビールを呑みながら色々語りあったりした。
 
私がOLをしていた会社は、陰でこそこそと悪口を言う人がとても多い会社だったので、私はそんな会社に長くいた為、だんだんと人を信じる事の出来ない人間になって行ったのだが、そんな私にとって、沖縄で、あの工房で、色々な人に出会い、何の裏もない純粋な親切さや、言い方はきつくても陰でこそこそせずに正面から物を言ってくれる人達と接して行くうちに、だんだんと人を信じる心をとり戻す様になって行った。
この事は沖縄に住んで最大のよかった事だと思う。
お金では買えない大切な物を得たと思っている。
 
最後は退職が急に決まり、慌ただしかったのだが、いつも注意ばかりされていた先輩が、ビールを買って来てくれ、みんなで飲んで、傷ついた中にも救われた思いがした。
 
先生にはろくに挨拶も出来なかったが、「お別れ会はしないのか」とぽつりと言ってくれたと同僚から聞いて、先生への申し訳なさでいっぱいだった私にとって、その言葉は本当に救いになった。
 
その2.3日後、先生やお世話になった先輩数名に今までのお礼の手紙を書いて、きちんと挨拶をしてその工房をあとにした。
 
それから先生は、時たま、「あいつは元気なのか、漆喰で作っているそうだなぁ」とぽつりと言っているそうで、とても給料に見合う働きをせず迷惑ばかりかけていた私の事を心配してくれていたそうで、今でも本当に先生には感謝している。


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Posted by 川島陽子 ・ ひだまりみかん at 20:05│Comments(0)シーサー修行の日々
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